2023年1月1日 中建日報
座談会「小規模コンクリート橋梁の点検の在り方と延命化を考える」
十河茂幸氏(近未来コンクリート研究会代表)
梅田俊夫氏(国土交通省中国地方整備局道路部道路保全企画官)
山本崇裕氏(広島県土木建築局道路整備課参事)
甲斐秀樹氏(広島県土木協会技術部研修担当監)
十河氏
・腐食環境察知し予防保全へ
・早めの補修で安く延命化
梅田氏
・安全安心な道路利用の環境整備
・新技術活用拡大で効率化
山本氏
・デジタル技術対応へ人材育成を
・データ分析により予測精度向上
甲斐氏
・深刻な予算不足に打開策を
・補修設計・施工一括発注など
2012年の笹子トンネル天井板落下事故を契機に始まった5年に1度の定期点検も2巡目となり、橋梁・トンネル等の点検サイクルが確立される一方、市町などが管理する小規模橋梁では、予算や技術者の不足を背景に、必要な補修工事への着手遅れなどが問題となっている。そこで、本紙では新春企画として「小規模コンクリート橋梁の点検のあり方と延命化を考える」と題した座談会を開催。コンクリートの専門家である近未来コンクリート研究会の十河茂幸代表をコーディネーターに迎え、国・県・市町などの実情や適正な補修に向けたあり方などを語ってもらった。
十河 まず、簡単に出席者の自己紹介をいただこうかと思いますが、私の経歴から申し上げますと、大林組の技術研究所に37年間勤務し、その間、耐久性の高いコンクリート構造物を構築することを念頭に、土木学会の示方書施工編の幹事などを務めさせていただきました。当時は、施工で頑張れば耐久性の高い構造物ができるとの考えでした。施工時に生じる不具合が今の経年劣化につながるなどもありますが、施工面だけでは抑制が困難で、発注者・設計者にも検討の余地があったと考えています。その後、1999年には新幹線の二次覆工でコンクリートが欠落するなど、いよいよ維持管理時代の到来を認識しました。
建設業を退職後、コンクリートの専門家として広島工業大学の教授を務めることになり、維持管理を主体に研究を進め、大学退職後は広島に残り貢献できることはないかと近未来コンクリート研究会を立ち上げ、初期ひび割れの抑制技術や生産性向上、延命化技術に関する協議会などを開催するとともに、コンクリートメンテナンス協会の顧問としてのお話をいただきました。現在は、広島県コンクリート診断士会の会長にも選んでいただき、研修会などを通じて指導する立場で活動をしています。
梅田 私は中国地方整備局で主に道路系の仕事をしてきました。中国横断自動車道尾道松江線の設計・工事発注・監督、山口県のバイパス事業の工事の事業調整、島根県の山陰道事業化の道路改築事業に携わり、各地元関係者や関係機関の皆様にお世話になりながら、橋梁、トンネル、大規模盛土等の道路構造物をつくりました。1巡目点検が始まった2014年度には広島国道事務所で道路保全の新設課の課長として道路メンテナンス会議を立ち上げ、1巡目の施設点検、橋梁補修等を担当。その後、本局道路部道路保全企画グループにて、自治体さんの点検講習会や不具合橋梁の診断支援を行い、1巡目のメンテナンスサイクルを回すための取組みを手がけました。
今年度からは再度、道路保全企画グループの総括として道路保全企画官となり、2巡目の取組みの真っ最中です。点検支援技術の充実は目を見張るものがあり、点検の質を確保しながら、新技術の活用による点検の効率化等に取り組んでいます。メンテナンスサイクルを回し、道路を利用する際に安全・安心に利用できるような環境整備に努めていきたいと考えています。
十河 次に、広島県から山本参事にご参加いただいていますので、自己紹介をお願いします。
山本 広島県に1993年に入庁し、これまで主に道路やの河川にかかわる仕事をしてきました。大規模な事業では、渡海橋で吊り橋である豊島大橋の下部工の工事発注や監督に携わらせていただき、その他、県内の市町にも2回派遣により勤務させていただいています。
2020年度からは道路整備課の参事になり、橋梁やトンネル、舗装、道路附属物の5カ年の長寿命化修繕計画である修繕方針の改訂に携わらせていただいています。今は、その修繕方針に基づき、点検や修繕の実施などのメンテナンスサイクルにより、適切な維持管理ができるように努めているところです。
十河 市町を代表して、広島県土木協会研修担当監の甲斐さんにご参加いただいています。自己紹介をお願いします。
甲斐 はい。私は1988年に広島県土木協会に入社したのち、92年に土木協会から分離独立する形で設立された広島県建設技術センターへ移籍。その後、2010年のセンター解散に伴い、土木協会へ再移籍し、現在は広島県内の基礎自治体に所属する土木関係職員を対象に研修会を開催させていただいており、十河さんにも大きなお力添えをいただいています。本日は、無責任な話となるかもしれませんが、県内の基礎自治体の現状を踏まえ、少しでも現状が改善できることを願い、ご提案という立場で参加させていただきたいと思います。
十河 ありがとうございます。それではまず、5年間(1巡目)の点検結果とその対応についてお話をいただきたいと思いますが、ちょうど先日、5年点検の1巡目で判定区分Ⅲ(早期に措置を講ずべき)とされた箇所が5年経っても十分に出来ていないとの報道を目にしました。私の認識では自治体は予算面で難しいが、国や高速道路会社は重要なインフラが多いため、対策されている印象があったのですが、実際はどうですか。
梅田 国土交通省では、1988年に示された橋梁点検要領(案)に基づいて定期的な点検が行われており、2004年にはそれまでの点検で得られた知見を反映して橋梁定期点検要領(案)を定め、おおむね5年に1度の近接目視を主体とする点検を行ってきました。その後、笹子トンネルの天井板崩落事故を受けて13年に道路法が改正、14年には社整審道路分科会にて「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」が出され、5年に1度の定期点検に関する省令が告示・施行され、1巡目の点検が開始された経緯があります。
判定には4つの区分があり、問題になっているのはこのうち判定区分Ⅲ・Ⅳの話だと思いますが、1巡目点検のⅢ・Ⅳについて、21年度末での着手率は整備局が99%であるのに対し、高速道路管理は69%、都道府県・政令市は62%、市区町村は50%です。Ⅲ・Ⅳの数自体は中国地方、全国ともに10%前後で大きな差はなく、次回点検までに措置すべきとされていますが、5年以上経過していても着手できていない橋梁は地方自治体において約4割あり、各機関は予算などの様々な問題を抱えつつ、事後保全の解消に努めている段階といえます。
道路を良好な状態に保ち、一般交通に支障を及ぼさないよう努めることは、道路管理者の責務であり、点検をやって終わりではなく、しっかり措置していくことが重要。措置しないことによるコンクリート片の落下やメタル橋の亀裂の進展などは避けるべきで、道路を安全・安心に利用してもらうためにも、取組みを実施していく必要があります。
十河 広島県の状況はいかがでしょうか
山本 広島県における14年度から18年度までの1巡目の点検結果については、判定区分Ⅳ(緊急に措置を構ずべき)と判定した橋梁はなく、判定区分Ⅲと判定した橋梁が全体の約11%でした。本県においても、1巡目の点検において判定区分Ⅲと判定した橋梁の修繕に優先的に取り組んでいるところであり、21年度末時点で78%の橋梁で修繕に着手しています。引き続き、1巡目の点検で判定区分Ⅲと判定した橋梁について、速やかに措置できるよう取り組んでいきます。
十河 対応が遅れているとされている市町の対応はどうですか
甲斐 梅田さんのご指摘にもあったように、定期点検結果によって作成された「長寿命化修繕計画」に基づき補修工事を行うこととなっていますが、お金のない基礎自治体には負担が大きく、補助金など国のお力添えがあっても思うように進んでいないのが実情です。ただ、時間がかかるほど橋梁の状況は悪くなるので、何か手段を講じなくてはいけない時期に来ています。
十河 予算がないので点検はしたものの、補修に手が付けられていないのが現状ということですね。点検費用は市町の負担ですか。
甲斐 点検についても国の補助はあります。とはいえ100%ではないですし、災害対応などもあって予算が足りない状況です。税収も減っていますから。
十河 統計方法によって多少の違いはありますが、早期にといいながら早期に出来ていないのは確かのようですね。次に、現在行われている2巡目の点検の話題に移ります。2巡目は点検の方法も少し改善が加えられているようですね。
梅田 はい。近接目視の原則は変わっていませんが、1巡目点検の最終年度に点検要領が改訂され、「定期点検を行う者が自ら近接目視によるときと同等の診断を行うことができると判断した場合は、その他の方法も近接目視を基本とする範囲内と考えてよい」となりました。
また、今年度から中国地方整備局では、橋梁及びトンネル点検の一部作業において点検支援技術の活用が原則化され、点検予算の制約があるなかではありますが、まずはⅠ・Ⅱの橋梁を対象とし、効率化や品質向上が見込まれるもの、例えばロープアクセスで実施していたハイピア、BT400で実施していた上部工、横断方向の延長の長い溝橋など、現地条件を確認しながら適用しており、ドローンによる写真撮影、3次元写真記録、ひび割れ抽出等の損傷図作成技術などの活用を検討し採用しています。
十河 基本的には民間が開発したものを採用しようという流れですか。
梅田 そうですね。各事務所で協議しながら採用を図っています。また、現在は事後保全から予防保全へ向けて措置を実施していますが、14~16年度の1巡目点検でⅠ・Ⅱであった橋梁が2巡目点検でⅢへ遷移したケースが5%あり、これらの橋梁も補修を行う必要があります。
2巡目点検の問題は、点検の質を確保しながら点検における様々な新技術等により、点検の効率化・品質向上を図る余地がありますが、それが十分に出来ていないこと。直轄においても点検支援技術の活用が原則化されたものの、費用の問題等から十分な活用が図られていません。点検支援技術は現時点で費用が高いため、まずはトータルコストでの優位性、手間の改善、品質向上によって幅広く採用すれば、効果の蓄積や発信によってどの技術が使いやすいか分かってくるはずです。これによって技術のレベルアップやさらなる技術開発も可能となり、橋梁のタイプや現場条件に応じて使用できる技術の優位性が整理できると考えています。点検支援技術をより多く使用することでコストも低減され、自治体橋梁への適用もしやすくなるのでは。
とは言いながら、現状では、自治体には小規模橋梁が多く、費用も含め適用が難しい面があります。今後、小規模橋梁を対象とした新技術のニーズに基づく技術開発や活用事例について、道路メンテナンス会議等での情報共有が重要です。AI活用、3次元データ、画像からのひびわれ抽出・損傷図作成等がキーワードであると考えます。
十河 広島県の点検はいかがでしょう。国交省のマニュアルに準じるのか、独自の点検要領が示されているかも含めてご紹介下さい。
山本 広島県定期点検要領については、国による自治体向けの技術的助言である「道路橋定期点検要領」を参考に策定しており、直近では、21年4月に近接目視の代替として新技術の活用を可能とすること等の改訂を行っているところです。
新技術の活用にあたっては、国土交通省の「点検支援技術性能カタログ(案)」に記載されている技術、新技術情報提供システム(NETIS)の登録技術及び「広島県建設分野の革新技術活用制度」の登録技術を用いています。「広島県建設分野の革新技術活用制度」は、これまでの「広島県長寿命化技術活用制度」を施設の長寿命化だけでなく、AI/IoT、ロボティクスといった進展するデジタル技術等を活用したインフラ整備等の効率化・高度化に向け、22年度に改正したものです。公共土木施設の調査・設計・施工・維持管理のあらゆる段階における施設の長寿命化やインフラ整備等の効率化・高度化に資する革新技術を募集しており、登録された技術については積極的に活用することのほか、実証フィールドの提供や技術の開発や改良の情報共有・助言、登録技術の発表の機会を設けるようにしています。
これまでの「広島県長寿命化技術活用制度」の登録技術の活用状況について、橋梁点検に関するものでは、ドローンによる点検技術や床版非破壊調査等を活用しています。ドローン点検については、第三者被害の影響がなく、桁下5m以上かつ橋長20mの橋梁で点検費用の縮減が見込める箇所を昨年度抽出し、今年度から定期点検に採用しているところです。
また、床版非破壊調査については、広島県定期点検要領の改訂の際に完成後50年以上経過し、大型車の交通量が1000台/日以上のコンクリート床版を有する鋼橋においては、定期点検に合わせて実施することを記載しており、21年度に32橋で実施し、非破壊検査結果を踏まえて橋梁の健全度を診断しているところです。
維持管理を計画的に進めるためには、マネジメントを確実に執行できる能力に加えて進展するデジタル技術に関する知識や利用する能力も重要となってきており、技術職員の育成・確保に取り組む必要があります。予算については、国の道路メンテナンス事業補助制度を活用することにより確保できており、計画的に事業を実施しているところです
十河 人材の話にも触れたいのですが、国交省さんは問題ないですか。
梅田 世代により、人数の差はあると思います。道路で言えば、改築系と管理系を経験しながら、地元・関係機関のステークホルダー、コンサル、施工業者さんと関わり、幅広く仕事をしていくので、自治体さんと同じですがOJT主体でやっていっています。
十河 市町さんでは維持管理の技術者が少ないことは事実ですよね。
甲斐 そうですね。市町の職員さんは事務採用で技術畑に転属し、3~5年で異動を繰り返すため、なかなか習熟度が上がりません。また、お金がないので、独自で点検しても知識が少なく判断できないケースも目立ちますし、補修の現場では表面的な形で判断して補修をすると、思っていた以上に症状が悪くて工事が増えたりもする。その辺の精度を上げることも含めて難しい問題です。
十河 異動の話は難しいですね。われわれとしては担当を固定してくれれば有難いですが、担当者の人生もありますし、他の部署のことも覚えないと。コンサルについても同じことが言えますね。
甲斐 そうですね。コンサルの担当者も橋梁点検ばかりやっているとは限らないですから。精度にばらつきはあります。
十河 コンサルさんの評価をⅡと判定して後々落ちたら困るからⅢにしたり。発注側の担当者がそれを見分けられれば良いですけどね。
甲斐 数をこなすうちにそれが基準の考えになったりもしますから。
梅田 ある程度体制があれば、診断時にみんなで議論すればいいのですけどね。
十河 中国道路メンテナンスセンターなどにその役割を期待したいですが。
梅田 ニーズをいただければ可能です。実際に診断のアドバイスなどを行っているケースはありますよ。
甲斐 自治体の意見では、1回目の点検でⅠと判定された場合、5年後に大きく悪化している可能性は低いため、次の点検を10年後にし、浮いた予算を補修に回したいとの思いがありますが、その辺はどうですか。
梅田 現時点では難しいです。道路メンテナンス会議でも言われる話ですし、趣旨は理解できますが、現時点では省令で明記されており、改正が必要です。
十河 なるほど。小規模橋梁の点検は色々な県が産官学で取り組んでいますが、その成功例を実績として出せば法律も変わるかも。そういう取り組みをしないといけませんかね。
梅田 現在の枠組みの中で、例えば労力の大きい点検でどのような工夫をしたという切り口の方が良いかもしれません。自治体の方の意見は他にもありますか。
甲斐 新技術の話でドローンの活用に触れられましたが、足場を組んで点検するとなると費用もかさみますので、国・県でドローンを積極的に活用してもらい、コストが下がればありがたい。また、市町管理橋梁の約半数を占める小規模橋梁についても発注方法の緩和を含め、補助金の交付対象工事に関するさらなるご検討をいただきたいです。
十河 それでは、テーマでもある小規模橋梁の話に移ります。市町にはたくさんの小規模橋梁があり、これを何とかしなくてはいけませんが、外観目視だけでは判断がつかないものも多く、塩害による床版などでは、劣化グレードの評価も困難です。そこで現在、近未来コンクリート研究会では広島県土木協会さんと連携し、塩化物イオン量と中性化深さを測定することで、早めに腐食環境を察知し、剥離・剥落する前に予見する方法を試しています。
具体的には、ドリル粉を採取して塩化物イオン濃度と中性化深さを測定するもので、簡易な装置を用いて測定ができますし、腐食環境になりそうな時期に予防保全としての安価な対策を講じたり、場合によっては点検の間隔を空けることができます。点検費用が抑えられれば、その分の予算を補修に回せるのではないかという発想です。
甲斐 ありがとうございます。ご説明いただいた「簡易点検要領(仮称)」は、橋梁補修工事を発注する際に必要となる詳細調査の各項目のデータを簡易な方法で精度よく、また安価に採取できる内容となっており、一部分を補修することが多い小規模橋梁であれば、そのデータをもとに補修設計をしなくても補修ができないかと考えています。現在、基礎自治体の管理橋梁をお借りし、点検結果を踏まえて補修工法を検討した上で、試行的に橋梁補修工事を行っておりますが、費用は2/3程度に抑えられ、近隣に位置する同様な症状の橋梁の補修工事を同時に発注することにより、より費用が抑えられることが分かっています。なお、3年間をメドに経過観察を行っており、現在のところ目立った異常は確認されていません。
この試みの結果を踏まえ、小規模橋梁については簡易点検要領によって補修設計を行わずとも中性化深さや塩化物イオン量等のデータで補修工事を行える仕組みとしていただき、少しでも安価に補修ができるよう補助対象としていただくことは可能でしょうか。
梅田 点検と補修のどちらの話ですか。
十河 点検の際に中性化などを図り、腐食環境にないのであれば、当分測る必要はないと思うわけです。その結果、点検間隔を5年から10年に延ばすと、単純計算では半分で済む。また、鉄筋が錆びそうであれば、防食措置をすれば早い段階で安価に対策できる。大規模だと大変ですが、小規模であれば、調査して必要に応じて補修もその場でやってしまえばという考えです。
梅田 新しい考え方で面白いですし、トータルで安くなることが説明出来れば補助の可能性はあるかもしれません。試行の費用はどうされているのですか。
甲斐 コンクリートメンテナンス協会さんのご厚意で、ほとんど手弁当でやって下さっています。
十河 考え方は設計・施工一括発注に近いかもしれません。
甲斐 市町の補修が進まないのは、結局はお金の問題。少しでも進めるためにアドバイスやヒントが欲しいというのが率直な願いです。例えば、ある程度の枠を決めて予算をいただき、その中で自由にということであればかなり進むはず。
梅田 思いはわかりました。説明資料のようなものをいただければと思います。
甲斐 よろしくお願いします。
山本 補修を着実に進めるためには、点検や補修工事などに新技術を活用し、トータルコストが縮減できるように取り組む必要があると考えています。県としても今後の取組み結果を市町にも情報提供させていただきたいと思っています。
十河 最後に、延命化を行うためには、適切な補修・補強が必要となりますが、補修・補強をするより更新した方がライフサイクルコストは安く済むとの考えもあります。ただ、早めの補修ができれば安く延命化できることも事実です。適切な補修で延命化するためのご提案があればお願いします。
甲斐 補修設計の作成を簡略化し、橋梁補修工事が発注できる方法、詳細設計業務と橋梁補修工事を一括で発注できる方法や、現在各自治体で行われている「道路維持管理業務」の年間委託を橋梁維持管理に特化して発注するなど、様々な検討を行う必要があると考えます。早期に補助金が交付していただける事業として構築され、国のサポートをいただきながら、健全に保たれた橋梁に囲まれ、安全・安心な生活が送れる日々が早く来ればと考えています。
また、広島県土木協会の研修はコンクリート橋だけでなく鋼橋も対象ですが、前述のコンクリートメンテナンス協会の徳納剛会長の会社(福徳技研)が鋼橋塗装を手掛けられていることもあり、今年度から鋼橋部門でもご協力いただいていることに、この場をお借りして厚く御礼を申し上げます。
山本 今後も劣化により新たに判定区分Ⅲになる橋梁が発生することも予想されます。着実に判定区分Ⅲの橋梁の補修を行い、判定区分Ⅲの橋梁を減少させ、予防保全である判定区分Ⅱの橋梁に着手できるように対策費用の確保する必要があります。また、今後はデータの蓄積・分析によりインフラの劣化予測精度を向上させることで、最適な時期に最適な工法で補修する「予測保全」を導入し、維持管理の高度化にも取り組む必要があります。事業量が膨らんでいくことが想定される社会資本の維持管理について、引き続き計画的かつ戦略的に進めていくために積極的なアセットマネジメントの推進に取り組みたいと考えております。
梅田 点検の質を確保し、点検結果に基づいた適切な工法によって次回点検までに構造物を保全することが重要です。点検・診断・措置・記録のメンテナンスサイクルを回し、笹子トンネル天井板落下のような事故が二度と起きないよう、安全・安心に道路利用者が道路を利用できる環境を提供することがわれわれ道路管理者の責務。
そのためには、構造物を長く健全な状態に保ち、延命化を図る状況に持っていくことが必要です。自治体が管理する橋梁は全体の約9割と言われており、自治体のメンテナンスサイクルが回るような個別の取組みや支援が必要と考えています。大きな課題として、市町村における技術系職員の減少、社会保障関係費の増加に伴う厳しい公共事業関係費の将来見通しがありますが、これらの課題を解決していくためには、事後保全から予防保全へ転換し、延命化と長期的なコスト縮減を図ること、新技術の活用による効率化や品質向上、人的資源を十分に活用することが挙げられます。
点検データを活用し、損傷がよく発生する部位や条件を分析し、効果的な補修工法を選定することが重要です。
新技術の活用については、積極的に活用することにより、効果のある技術の蓄積、ニーズに応じた新たな技術開発への波及を通じて、コストも低減されていくと考え、人的資源の活用に関しては、整備局では、自治体職員・直轄職員を対象に人材育成を目的とした点検の知識と技能を取得するための研修を実施しています。また、補修の研修にも力を入れており、補修補強の構造解析の考え方から設計事例まで網羅的に学べる内容となっています。
各管理者において、点検、措置等における具体的な課題は、課題の情報共有、対応策を道路管理者で構成するメンテナンス会議の場などで総括的に検討することが重要です。
最後に、構造物を長く健全な状態に保ち、延命化を図っていくことに対して、産官学との連携を進め、同じテーブルで議論・検討し、知恵を出していく機会が多くあればよいと思います。
十河 本日は社会資本整備の安全・安心な維持管理に関する貴重なご意見をいただき、感謝申し上げます。ありがとうございました。