2022年3月1日 JCM-REPORT
新コンクリートのはなし
連載を始めるにあたり
脱炭素社会の実現に向けて、セメントコンクリートは多くの二酸化炭素を排出していることから、排出削減を目指していますが、木造建築が着目されたり、セメントを使わないコンクリートを模索したりする動きもあります。しかし、過去の災害事例でもコンクリートは重要な社会インフラを形成してきており、今後もインフラの重要な資源と考えられます。
そこで、2006年の連載した「コンクリートのはなし」を今流に見直して連載することにしました。「新・コンクリートのはなし」は建設業で仕事をする方々にとって知っておきたい基本的な技術と新しい話題を10回に亘り提供します。
連載予定1.持続可能なインフラとしてのコンクリート
2.初期ひび割れは設計段階で予防
3.施工段階で生じる不具合の防止策
4.レディーミクストコンクリートの注文方法
5.コンクリートの圧送時に潜む危険
6.コンクリートの締固めの適切な方法
7.コテ仕上げで緻密なコンクリートを
8.冷やすと危険な散水養生
9.定期点検で早期に予防保全
10.劣化を抑制するための補修方法
近未来コンクリート研究会
代表 十河茂幸
第1回 持続可能なインフラとしてのコンクリート
セメントの生産時には、炭酸カルシウムが主成分の石灰石を焼いて酸化カルシウムのするために1トン製造するために600kgの二酸化炭素を排出することになます。さらに燃焼するための二酸化炭素を考慮すると多くに二酸化炭素を排出していると指摘されています。
しかし、その後は、空気中の二酸化炭素を吸収し、炭酸化(中性化と呼ばれている)して、逆にカーボンニュートラルに向かいますが、これは長期的に継続することになり、コンクリート構造物を継続的に使用することが脱炭素となると言えます。
セメント製造時にCO2を排出
セメントを1トン製造するには、石灰石を約1,200kgと年度類約240kg、けい石類約40kg、鉄原料他を約30kg、凝結調整のための石こう約30kgで、合計1,540kgを必要とします。さらに、焼成工程では、微粉炭などの化石燃料のほか、廃タイヤ、廃油、廃プラスチック、木くずなど他産業の廃棄物や副産物が代用燃料、原料として利用され、廃棄物の多くが有効利用されています。(※1)セメントの主成分はCaOであり、石灰石(CaCO
3)を燃焼して得られるため、
CaCO
3 ⇒ CaO+CO
2となり、石灰石を燃焼させると多くの二酸化炭素が排出されることになります。
炭酸化でCO2を吸収
セメントが水和反応すると、水酸化カルシウムを主成分となり、高アルカリ性を有し、鉄筋を腐食から守ることもよく知られています。
CaO+H
2O ⇒ Ca(OH)
2 ところが、空気中の二酸化炭素を吸収すると、元の炭酸カルシウム(石灰石の主成分)に戻り、これが中性化と呼ばれる反応で、高アルカリ性から鉄筋を守れない低アルカリ性に変化します。
Ca(OH)
2 + CO
2 ⇒ CaCO
3 + H
2O
鉄筋は炭酸化(中性化)により錆びる環境となり、劣化が進むとされています。
炭酸化はCO
2を吸収する反面、耐久性を阻害する要因となっています。鉄筋が錆びると腐食膨張が生じ、体積が2~4倍になり、かぶり部分を剥落させて危険な状態に陥ります。ところが、鉄筋が錆びるのは、酸素と水が必要であり、腐食環境になったからといっても、酸素と水の供給を止めるとさびないことになります。
Fe
2+ + 2OH
- ⇒ Fe(OH)
2 <水酸化第一鉄>
Fe(OH)
2 + OH
- ⇒ Fe(OH)
3 <水酸化第二鉄>
Fe(OH)
3 + H
2O ⇒ FeOOH <赤錆>
点検での予防措置がCO2の低減に繋がる理由
コンクリート構造物の維持管理が重要との認識が根付いてきました。コンクリートは延久構造物として捉えられてきましたが、経年劣化が顕著になり、事後保全から予防保全が必要となっています。剥離や剥落が生じて補修するより、劣化を予見して補修する方が安価になるためです。鉄筋の腐食が進行しないと剥離や剥落を生じないため、予防的な点検は、なかなか困難でありますが、塩害環境や中性化環境を予測することで、劣化の予見が可能となります。これらの技術も習得する必要がありますが、経費を掛けないで点検・診断を行い、予防保全がCO
2の削減に功を奏すると考えられます。なお、鉄筋の腐食は水と酸素が必要となり、劣化環境に置かれても、水と酸素の供給を抑制することで腐食速度が抑えられることも知っておきたいことです。
長期供用は二酸化炭素の低減策
コンクリートを長期供用することが、二酸化炭素の排出を抑制できるとの考えもあります。要は、長時間の供用こそが、年間の二酸化炭素を削減することに繋がり、安全・安心のインフラを構築することと、低炭素とすることを両立させることが期待できるはずです。そのためには、二酸化炭素の抑制できるセメントの製造技術と、構築したのちは予防保全で適切な点検技術と診断技術を駆使し、さらに延命化を実現できる補修技術を開発することが必要と考えられます。
参考文献
※1:環境にやさしいセメント産業、セメント協会、2021